大阪大学理学部宇宙地球科学科

池谷 元伺先生に聞く

今回は理学部宇宙地球科学科の名物教授(?!)

 池谷教授にインタビューしました。先生はESR(電子スピン共鳴)による年代測定法を考え出され、現在は地震前兆現象の動物異常行動や地震発光が、電気現象であるとの研究も幅広くされています。

目を閉じて耳を澄ませば地球の鼓動が・・・

大学は愉快な動物園!?

先生は宇宙地球科学棟の建物に関しては面白い案をお持ちになっていたとお聞きしたんですが・・・。

 マチカネワニを建物の壁画に復活させるというのが、僕が最初に考えた建物だったんです。

 初代総長の長岡半太郎という有名な物理学者が、「大学とは動物園みたいなものだ」という『大学動物園論』を唱えたんです。「プライドばかり高くって天狗みたいになって、体も大きくなってゾウ、どこにでも首を出してキリンとかみたいな動物もいろいろいる。そういう動物の特徴というのは、普通の人と変わってるところなんだ。だから、変わった動物の大学の先生が社会の中に放たれたら、食べていけない。」よって。「珍奇な動物は、今は社会に対して役に立たないかもしれないけど、そのうちの誰かが、いつか何か、役に立つことするんじゃないか。」ということで、世間からずれ、特徴ある人間を飼っているのが大学なんだ。と、『大学動物園論』は、ずいぶん素晴しい考えだとおもう。だから、新しく建つ宇宙地球科学科の建物に、天文ドームをつくって、動物の楽園らしく壁にはモザイクでマチカネワニや恐竜の絵を描きましょう。すべての建物がその学科を象徴するようないろいろな絵が描かれていると、ずいぶん楽しい大学になるじゃないか、と僕は真面目に提案した。そしたら本部の建築家で文部省へ戻った課長が、「先生、大学動物園論は分かりますけれども、みんながそんな建物にしたら、阪大はどうなるんですか。」ってね。僕は「いいじゃないですか、こういう絵を描いて、理学部から発掘された日本一大きな化石のマチカネワニを復活させよう」って言うて、デザインを考えたんです。相手にされなくても・・・。すると金森総長がね、「内側に描くんだったらいいんじゃないか」っておっしゃって、ロビーに壁画を描くことになったわけ。

過去から未来へ・・・

一階ロビーの壁画には特別な思いが込められているようですが・・・。

 あの壁画には、化石を含む秋吉台の石灰岩があるんだけど、地層の逆転構造といって「日本列島がいかに出来たか」を物語る有名な石灰岩なわけね。他にも12億年前の波の跡の化石なんかもある。あの宇宙地球科の一階ロビーはね、何十億年にもわたる地球の歴史がつまっているんですよ。
 院生が『なにやっとんや。そんなことで学会でしゃべれるか。』いうて教授に怒られたって、どうってことあらへん。学問が全てと違うよ。飯をくって、子供をつくって、ということやったら別に大学来んかったって出来るわけよ。しかも、そうすることが人間として、生物として、まず第一歩。と僕は思う。僕らの命は、親の、そのまた親の、そしてサルの、もうひとつ別の生物の・・・。さらにさかのぼれば、バクテリアまでいくわけや。その壁画にあるシアノバクテリア化石以来の30億年もの歴史の中の50年くらいを僕らは生きてる。そのなかで僕らは、自分なりの考えとか、自分なりのものを次の世代に残していく、そしてそれがつながっていく・・・。それが生きてる、生かされてるということ。生命を継続することが僕らの使命。それを途中で「やぁ〜めた」言うてビルから飛び降りるなんてバカなことはして欲しくない。それがぼくの言いたいことね。
 学問をするのは楽しくて、それが大学だけれど、まず生きるということ。成績が可でも留年しても、いいじゃん。このロビーで何十億年にもわたる地球の歴史というものを考えて、自分のもち時間がわずかなんだということを考えて、短い人生を有意義に過ごして欲しい。
 僕はオリジナリティとか、独自性というのを主張するけどね。だけど、自分が悩んでいる大きな悩み、これ以上の悩みはないと苦しんでいる人がいてるかもしれない。でもそれは、今までの人類が経験したことのない苦しみだろうか。そんなにオリジナリティのある特異な悩みだろうか。同じように悩んでいる人は絶対いると思う。歴史の過程だったら絶対にいたと思う。だとしたら、そういった悩みにおしつぶされて欲しくない。
 悩みに対して「戦え」とは僕は言わない。本当は勇敢に戦うのは、結構だと思うよ。でも、うちひしがれてるときなんかは、そこまで出来ない。だからそんなときは、時間がすぎるのを待つ。ヘルマン・ヘッセの詩にもあるよね。嵐の時も暴風雨の時も、その雲の上にはやっぱり太陽がある。青空がある。それを信じて嵐がすぎるのを待つ。耐える。魂は曲がりくねった道を行く。それがひとつの生き方と思う。そういうことをぜひ若い人に言いたい。これが僕からのメッセージ。

キーワードは"学際"

これからの学問の方向性をどのようにお考えですか。

 マチカネワニというのを知ってる?マチカネワニというのは日本で最大の化石で、地学の教科書には必ずと言っていいほど出てくる。それなのに阪大生で、マチカネワニが理学部の敷地で見つかったことを知らない人がいる。おかしいと思うよ。
 20世紀の学問が、どうしていろんな問題を解決できないかって言うと、みんなあまりにも専門化しすぎてるわけね。だからもう少し広い視野を持って、いろんな分野の問題に取り組むような、そういう学際的な研究をしないといけない。国と国との間を国際というように、学問と学問の間を「学際」というんだけど、そういう見方をする人も居ないといけない。学問と学問の間の境界を研究することが、21世紀には必要と思う。自分の専門分野を離れて、他の分野に取り組むということは、勇気のいることだし、大変なことだよ。だけど一つの専門分野にこだわっていたら、科学は健全には進歩しない。専門分野と専門分野の境界に金鉱脈が、おもしろい問題が残されている。だから基礎を身に付けたら、学際的な研究を、若い人はやっていくべきだと思うよ。皆さん頑張って下さい。

先生、どうもありがとうございました。

インタビューを終えて

 ちっぽけな私達。でも、地球の歴史のなかで連綿と続く生命の一つ。宇宙地球科学棟の一階ロビーを訪ねてみてください。プレカンブリア紀の波の化石を眺めて、ほら、耳を澄ませば12億年も前の波の音が聴こえてきますよ・・・。

Profile

1963年    大阪大学工学部電子工学科卒業
1965年    同、大学院原子力工学専攻修士過程修了
1967年    同、博士過程中退
        名古屋大学工学部助手、同、講師(1969)
1970-73年   ノースカロライナ大学物理学科研究員
1973年    山口大学工業短期大学部教授
1976-78年   西独アレクサンダー・フンボルト財団奨学研究員
1987年    大阪大学教授(理学部物理学科)
1991年    同、宇宙地球科学科(地球物性学講座)